『 早春ものがたり ―(1)― 』
「 ふう・・・ん ああ 眩しいわあ 〜 」
フランソワーズは思わず足をとめ 額の前に手を軽く翳した。
「 ・・・ これが二月の太陽〜ってちょっと信じられないわねえ 」
眩しいといいつつも 彼女はずっとその場に佇んでいた。
「 きれい ねえ ・・・ いつも思うけどここからの光景はほっんとに気持ちがいいわ
・・・ 海と空と ・・・ ふう〜〜〜〜 ・・・ 」
彼女の足元には陽光をいっぱいに受け きらきらを揺らせている海が広がる。
「 海って ― なんて神秘的なのかしら ・・・ 季節によって全然違うのよねえ
一日の間だってくるくる変わるし・・・ 本当にきれい ・・・ 」
生まれ育った街は 内陸の都市で海からは遠かった。
夏のバカンスを海辺の町で過ごしたことはあったけれど、こんなに身近に海を感じるのは
この地に来て初めてだった。
「 この空 ・・・ ! なんて青いの ・・・ !
冬の日がこんなに明るいなんて 〜 同じ太陽とは思えないわあ 」
ああ いい気持ち ― 彼女はもう一度深呼吸をしてから ゆっくりと家路を辿った。
家は ― この崖ッ渕の洋館である。
「 うふふ ・・・ ああ いいきもち〜〜 寒いけどお日様がこんなに明るいし。
ふう〜〜〜 空気 美味しいわぁ〜〜 わたし このお家 好きよ 」
手にしていた買い物袋を持ち直すと、 彼女は軽い足取りで急な坂を上っていった。
故郷の町で 冬は 長かった。 短い秋は
次の季節に早々に席を譲り
鈍色の雲が一日中 低く垂れ込め 時計の針が昼を過ぎると人々は電灯のスイッチを押した。
街灯の淡い虹色の陰が暗い歩道に輪を描いた。 雪もよく降った。
石畳の道でこぼこで踏み固められた雪は 黒ずみカチカチになり よく滑った。
人々はマフラーに頤を埋め 外套に包まり足早に行き交うのだった。
― でも そんな季節を 嫌いではなかった
「 ううう ・・・ 寒い〜〜〜 けど! 走って行けば大丈夫よね!
」
大きなバッグを抱えなおすと 彼女は凍った道を駆けだした。
「 あ おはよ〜〜〜 フランソワーズぅ〜〜〜 」
「 あら おはよ、 ルイーズ〜〜 」
稽古場に近くなれば 仲間たちが方々からやってくる。
「 おっはよ〜〜〜〜 」
「 ルイ〜〜〜〜 おっは〜〜よ 」
自転車で追いこしゆく男子もいる。
「 う〜〜 寒いね 〜〜〜 」
「 ウン ・・・ 暖房 スイッチ 入っているかなあ〜〜 」
「 う ・・・ アタシら 一番かも ・・・ 」
「 あ ルイが先に 」
「 あいつ そんなことに気づくと思う? 」
「 ・・・ 無理だね〜〜〜 」
肩を竦めあいくすっと笑うと 二人は一緒に駆けだした。
そう ― 寒くて暗い季節も ほとんど苦にならなかった
彼女の周囲は いつだって希望と愛と夢と熱気にあふれ寒さなんかに気を取られている
ヒマはなかったのだ。
見つめているのは 前だけ。 そして 自分自身の夢だけ。
それが射程距離内に見えてきているのだから。 あとは ― 自分のチカラで飛んでゆくだけなのだ。
彼女は まさに飛び上がるために最後の体勢に入っていた ― のだけれど。
― そして。 とんでもない歳月の後 今 彼女はここにいる。
この極東の国の冬
といったら … !
突き抜ける青空から 陽光はきらきら惜しみ無くふりそそぎ、
日向はまるで春みたいなのだ。
「 ふふふ〜〜ん♪ ご飯の準備ね〜〜 ああ そうだわ、温室のベビー・リーフ、
美味しそうよねえ。 摘んでこようっと 」
白いエプロンを揺らして 彼女は中庭に出ていった。
「 この季節 好きよ。 ああいい気持ち♪ わたしの人生にもこんな日が
また巡ってきたのね・・・ わたし この国の冬 好きだわ 」
にっこり青い空にむかって彼女は微笑んだ。
「 ふふふ〜ん♪ ・・・ あら? ジョー?
」
門のところに 同居人となった仲間が ぽつん、と立っていた。
「 あ ふ フランソワーズ ・・・ た ただいま帰りました。 」
「 おかえりなさい〜〜 気持ちいいお天気ね 」
「 あ う うん ・・・ 」
「 ステキな日ね〜〜 こんなに素敵な冬の日って大好きだわ。
ねえ 冬の海ってとってもキレイなのね 」
「 あ う うん ・・・ キレイだね ・・・・ 」
茶髪の青年はそう言って なぜか耳の付け根まで赤くなった。
「 ? 日本の冬っていつでもこんなカンジなの? 」
「 え!? あ あ う うん ・・・ 」
「 あら 余計なおしゃべりしちゃったわね〜 さあ お茶、淹れるわ 」
「 あ ありがとう ・・・ 」
頬に赤味を残したまま 彼は彼女の後を着いてきた。
うふ? なんだか面白いヒトね ・・・ 009って。
防護服を着ている時とはまるっきり別人みたい
「 ねえ わたし、二ホンの冬が大好きだわ 」
「 ぼ ぼ ぼくも す 好き だよ ・・・ 」
「 ? 楽しいヒトね ジョーって 」
「 そ そ う?? 」
フランソワーズはころころ笑い なぜだか嬉しそう〜なジョーと一緒に
< 崖っ渕の家 > に戻るのだった。
やがて 面白いヒト は 愛する人 となり それなりの紆余曲折の日々を経て
二人はめでたく一緒になり 冬のある日 新しい命を授かった。
そして。 < 優雅な > 日々は ― あっと言う間に消えた。
たたたたた 〜〜〜〜〜〜 っ !!!
「 きゃい〜〜〜〜〜 ♪ 」
金の髪を靡かせ エプロン姿のちっちゃな女の子が坂道を駆け下りてゆく。
赤い長靴がたかたか〜〜〜〜 信じられない速さで動くのだ。
「 すぴか!!! 待って! まちなさい 〜〜〜 」
大声がして コートをひっかけた女性が大慌てで追いかけてゆく。
「 おか〜〜〜しゃ〜〜〜ん♪ あ〜やく〜〜〜〜 」
「 すぴか!!! すとっぷ〜〜〜〜 」
「 きゃい〜〜〜〜 」
母親はかなり本気で追いかけているのけれど ちっちゃな娘は大はしゃぎで
どんどん先に駆けてゆく。
「 もう〜〜〜 すぴかぁ〜〜 大きな道の前で すとっぷ!! 」
「 きゃわわ〜〜〜〜〜 すと〜〜〜っぷぅ〜〜〜〜 」
小さな金色のアタマが やっと止まった。
「 す すとっぷよ〜〜〜〜 すぴかっ ・・・ はあ〜〜 追い付いた! 」
「 きゃわ〜〜〜 おかあしゃ〜〜ん♪ 」
ちゃんと立ち止まっていた娘は 今度はぴと! と母親にくっついた。
「 ふう〜〜〜〜 ・・・・ もう〜〜〜 先に行ってはダメでしょう? 」
ふうう ふうう 〜〜〜 大息ついてる母の腕の中で娘はくりくり巻き毛を振っている。
「 ・・・元気ねえ・・・ すぴか 走るの好き? 」
「 うん! すぴか だいしゅき〜〜〜 」
「 そうよねえ ・・・ すぴかのお父さんは 009 だものねえ ・・・ 」
「 おと〜しゃん? だいすき〜〜〜 」
「 ・・・ そうねえ 〜 」
「 うん♪ 」
まさしくジョーの娘である証拠?? だろう。
このコは ほっんとうにめちゃくちゃに足が速かった … !
あんよができるようになると 直に いや ほぼ同時に たかたか走り出したのだ。
その日から 母はず〜〜〜〜〜〜〜〜っと。
ちっちゃな金色のアタマを追いかけてふうふう走り回っているだ。
ふうう 〜〜〜 もう〜〜〜 ・・・!
ジョーのせいよ! ええ そうだわ!
すぴかってば ジョーの加速装置を受け継いだんじゃないの??
「 おか〜しゃ〜ん おかあしゃん 」
「 なあに? 」
「 あのさ〜〜〜 すばる は? 」
「 え? ・・・ あ〜〜〜〜〜!!! 」
母は今きた道を振り返ると ― 坂の上を指した。
! すばるってば! まだ 上にいる〜〜〜〜〜 !!
「 すばる〜〜〜〜〜 !!! なにしてるの〜〜〜 はやく! 」
「 おか〜しゃ〜〜ん ・・・ ありさんがね ・・・ 」
「 え? なあに?? 」
「 ありさんがいる〜〜 僕 おはなししてるの〜〜 」
「 すばる〜〜〜 ありさんとのおしゃべりは帰ってからにしましょ? いらっしゃい 」
「 ありさんがね〜 もっとおはなしする〜って 」
「 〜〜〜〜 ・・・ ね もうすぐバスがくるの。 だからすばるくんもいそいで 」
「 ありさん 僕ねえ これから 」
小さなムスコの姿が見えなくなった。 どうやら彼は道端にしゃがんでいるらしい。
「 おか〜しゃん ばすくるの? 」
つんつん ・・・ すぴかがコートの裾を引く。
「 ええ そうよ。 すぴか ちょっとここで待っててね? 」
「 ・・・ ここ? 」
すぴかは ちょっと不安そう〜な顔だ。
いつも通る道端だけど 一人でいるのはやはりあんまり嬉しくは ない。
「 ・・・ すぴか だけ? 」
「 お母さんね、すばるを連れてすぐに戻ってくるから。
それから三人で一緒にバスに乗りましょ? 」
「 すぴかも いく! 」
「 ええ 一緒におでかけしましょうね。 」
「 いっしょに すばるのとこ、いく ! 」
すぴかは きっぱり言うと 坂の上の方を指した。
「 え 」
「 おか〜しゃん ゆくよ〜〜〜 どん! 」
「 え あ わあ〜〜〜 待ってよぉ〜〜 すぴかあ〜〜〜 」
彼女の小さな娘は 金色の髪をゆらしつつ弾丸みたいに! 坂を突っ走って登ってゆく。
「 すぴか〜〜〜〜 は っ はっはっ 」
フランソワーズは大慌てで彼女の後を追ってゆく。
! 〜〜〜〜 チビのくせに〜〜〜 なんて速いのぉ〜〜〜
マジ 加速装置 もって生まれてのかも・・・!
「 すぴか すばる! 」
母が再び 坂の上に辿り付いた時、双子の姉弟は仲良くしゃがみ込んで
蟻さんとダンゴムシ を弄っていた。
「 〜〜〜〜 !!! もう〜〜 ほら バスの時間なのよっ 」
本当は手を洗ってほしいのだけど ・・・えいっと母は目を瞑った。
う〜〜〜〜 このバスを逃すとね、 次は30分後なんだから〜〜
よ〜〜し ・・・ !
「 さあ 行くわよっ !! 」
「「 きゃわわ?? 」」
母は ぐい、と双子の我が子を抱き上げ ― 003 であることを感謝しつつ
家の前の急坂を 全力疾走で下っていった。
「「 きゃわ〜〜〜ん おか〜〜しゃん すご〜〜い〜〜〜〜〜 」 」
はっはっは ・・・ 髪振り見出し、汗だくになり。 形良く結んだはずのマフラーは
ぐるぐる巻きになり。 久しぶりに履いたヒールのあるブーツは そのヒールの革に
剥け目を作ってしまった。
あ〜〜〜 あ・・・ いつものブーツにしておけばよかった・・・
「 おか〜しゃん ばす 〜〜〜 」
つん つん。 今度は 息子が彼女のコートを引っ張っている。
「 ああ はいはい。 すぴか? すぴかさん? 」
「 ここ〜〜〜 おかあしゃん〜〜 」
娘はガードレールを潜り市道の端っこまでゆき 海に向かってバンザイしていた。
「 ! ほら バスきましたよ〜〜 」
だだだ・・・! えいっ!
母は ガードレールを跨ぐと 娘をがばっと抱き上げた。
「 バスに乗りますよ すぴかさん 」
「 は〜〜い うみ さ〜〜ん ばいばあ〜〜い 」
「 すばるクン?? さあいらっしゃい。 」
「 ウン おか〜しゃん ・・・・ 」
伸びてきた息子のちっこい手をにぎり もう片方の手で娘を抱えあげ ―
「 あ 乗ります〜〜〜 」
母は 背中のマザーズ・バッグをゆすりあげつつ バスに乗り込んだ。
「 ほら・・・ここに座って。 静かにしているのよ? 」
「「 は〜〜い 」」
「 ふう ・・・ 」
ちょこん、と座ったチビ達の前に立ち 彼女はふか〜くため息を吐いた。
あ〜 ・・・ なんとかバスに間に会ったわあ
子供たちの幼年時代 ― 母はひたすら走り回っていた ・・・
「 それでね! なんとか買い物、済ませて郵便局に行って ・・・
ジョー? 聞いてる〜〜〜 ? 」
その夜 遅く帰ってきたジョーを前に、フランソワーズはおしゃべりが止まらなくなってしまった。
「 聞いてるよ ・・・ チビたちの相手、大変だよねえ 」
ジョーは穏やかに細君の話に相槌をうつ。
「 もうねえ〜〜 他所行きのブーツがめちゃくちゃよ ! 大事にしてたのに〜〜
もう ムートン・ブーツしか履かない〜
」
「 え。 それってあの・・・
ギャートルズ みたいなヤツかい
」
「 ??
なに? ギャ・・・?
」
「 ・・・ あ
いやあ〜 あのぅ
ネアンデルタール人が履いてたみたいな
もふもふ〜〜〜した長靴 のことかい。 」
「 ネアンデルタール人・・って ずいぶんじゃない〜〜? 」
「 え だってさ ・・・ アレってなんかさ〜〜 そのぅ〜〜〜 そりゃ便利で
楽そうだけど〜〜 なんかさ〜〜 う〜〜ん あ! シックじゃない よね? 」
ジョーは必死で言葉を探し なんとか < chic > という彼の細君の母国語に
辿りついた。
「 シック??? 」
「 そ そう ・・・ エレガントじゃない ってか ・・・ 」
「 エレガント?
そうよ! だって
ウサギよか足が速くてすばしこいのと
カメよか頑固モノの相手 してるのよ! エレガント も シック も 別世界だわ 」
「 あ は そ そうだねえ ・・・ 」
「 でしょ? も〜〜〜 なんだってすぴかってばあんなにちょこまか〜〜素早いの??
ジョー ・・・ アナタに似たのよ、あの子、天然の加速装置、持ってるのよ 」
「 あは?? そ そうかなあ〜〜 あ でも将来はアスリートとか ・・・ 」
「 ・・・ バレリーナは無理かしらあ ・・ 」
「 さ さあ ・・・ あ すばるも元気かい。 」
「 え〜え。 放っておけばね、何時間でも庭で蟻さんやらダンゴムシを観察してるし。
踏切で引っ掛かると もう張り付いたてままず〜〜っと電車が行ったり来たりするのを
見てるの! 」
「 へえ〜〜 観察眼に優れているのかな 」
「 けど! ご飯食べるのも、服を着替えるのも の〜〜んびり なのよっ 」
「 ふうん ・・・ すぴかは早食いだもんね 」
「 ええ。 で ね。 駅に行くとね 行き先表示 とか 運行状況のお知らせ とかあるでしょ。 」
「 ああ てれれ〜〜って流れてるヤツだろ 」
「 そ。 すばるってば ほとんど全部読めるのよ。 わたしの知らない漢字とかも
ぜ〜〜んぶ知ってるの。 」
「 へええ〜〜 アイツ やるなあ〜〜 アタマいいんだ? 」
「 ・・・ けどね。 絵本は読めないの、ってか関心ないのよね。
ジョーの電車グラフとか 昆虫百科 はすらすら〜〜読むんだけど 」
「 あはは〜〜〜〜 まあな オトコノコなんてそんなもんさ。 」
「 え ・・・ そうなの? 」
「 ああ。 自分が興味あるものだけにしか目が向かないんだ。 」
「 へえ〜〜 ああ でも毎日あの連合軍相手にへとへとだわ 〜〜 」
「 羨ましいよ ・・・ ぼくもチビ達と飽きるまで付き合いたいなあ 」
ジョーは ちょっと切ない目をしてため息をついた。
最近 彼は仕事が忙しく子供たちが起きている時間には到底帰宅できない。
子煩悩な彼は それがとてもとても辛がっている ・・・
「 ・・・ ごめんなさい ・・・ わかってるのよ、ジョーの気持ち ・・・
忙しいってことも ・・・
」
「 ありがと。 」
大きな手が そっと彼女の指を包んだ。
「 疲れているのに ・・・ 文句ばっかり言ってごめんなさい ・・・ 」
「 そんなこと ないよ〜 チビたちのこと、話して欲しいんだ。
ぼくが付き合えないから ・・・アイツらのこと、何だって知りたい。 」
「 うふふ ・・・ もう〜〜ね エネルギーのカタマリよ!
どんなマシンだって あの子たちには勝てないわね〜〜 」
「 そうだろうなあ
」
「 それでね、 突然 ことん! って。 スイッチが切れたみたいに寝ちゃったりするの。
すぴかなんてね〜〜 晩ご飯たべる途中で眠っちゃうわ。 」
「 あは ・・・ もう元気いっぱいなんだなあ 」
「 あ ごめんなさい、おしゃべりばっかりして・・・ お代わりは? 」
「 う〜ん ・・・ あの さ。 お茶漬け してもいい? 」
「 どうぞ どうぞ。 < お茶漬け海苔 > ちゃんと買ってあるわ。 」
「 わお♪ サンキュ〜 ・・・ ごめんね 」
「 気にしないで〜 お茶 熱いの淹れるわ 」
「 ありがとう 」
「 わたしも熱いの、飲みたいのよ。 」
「 ウン ・・・ 」
やがて 二人は湯気の立つ茶碗を間になんとなくしみじみ〜〜見つめ合った。
温暖な地域とはいえ 二月の深夜はやはり深々と冷える。
「 ふう ・・・ 美味いなあ 」
「 ええ ・・・ 」
「 まだ冬なんだね 」
「 二月って ・・・ 好きな季節だったんだけど ・・・ 冬の海とか・・・
あ〜〜 最近 海を眺めるのも忘れてるわ 」
「 ぼくも さ。 ここいらの海 いいよなあ 〜 のんびり眺めたいな 」
「 ふふ ・・・ チビたちが走り回っている間は 無理かも 」
「 だ ね? 」
ふふふ ・・・ ははは ・・・
ため息みたいな笑いを浮かべ でも二人はほっこり笑いあうのだった。
そして ― 季節は知らぬ間にすり抜けて行く。
この館を建てた時門の脇に植えた松の苗は いつの間にか門を越え枝を張っている。
双子のチビ達も 中学生になった。
「 おと〜さん!! そんじゃ〜 時間まもってね〜〜〜 」
すぴかが玄関で怒鳴っている。
「 すぴかさん。 ちゃんとリビングでお話なさい。 」
「 だって〜〜 部活の朝練に遅れるも〜〜ん じゃね〜〜 」
「 おう〜〜 すぴか〜 ちょい待ち〜 」
どたどたどた〜〜 ジョーは慌てて玄関に出てきた。
「 おと〜さん〜〜 なに〜〜 」
「 いや ごめん。 待ち合わせ場所と時間の確認を 」
「 わかってるってば。 3番出口 14時 でしょ! じゃね〜〜 」
「 あ ああ うん。 いってこい〜 部活 頑張れよ〜〜 」
ジョーがつっかけを履いて慌てて門まで出た時には すぴかはもう坂の半ばを
駆け下りていた。
ひえ〜〜 アイツ、ほっんと速いなあ〜〜
「 すぴ〜〜か〜〜 」
ぶんぶん手を振る父に すぴかはちらっと降り返り また猛然とダッシュして行った。
「 ふふふ〜〜 さっすがぼくの娘♪
そ〜して へへへ〜〜〜 今日は娘とデートなんだもんな〜〜〜 」
ジョーは超ご機嫌ちゃんで 玄関に戻るのだった。
ザワザワザワ −−− ご〜〜〜〜 ・・・ ザザザザ ・・・
地下鉄の改札口はいつだって風が吹き上げ騒めいている。
たたたた ・・・ ! 上着を抱えた男性が駆けこんできた。
長めの茶髪を振り見出し盛んに辺りを見回している。
「 いっけね〜〜 遅れちまった ・・・ え〜〜と すぴか は・・・ 」
約束の場所はここのはず・・・と 見渡す と。
「 あ いた〜〜 ? !! だ だれだ〜〜〜〜 あのオトコは!?!? 」
ジョーは ― 瞬間湯沸かし器 と化した !
そう ・・・ 島村すぴか嬢の後ろには 明るい髪の少年の姿が見えたのだ。
Last updated : 02,02,2016.
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*********** 途中ですが
え〜〜 お馴染み 【 島村さんち 】 シリーズ です
ですから な〜〜〜にも起きません、 ごく普通の日々?